私は音楽を聴くのが好き。
好きな曲を聴いて泣いていることがある。

知らぬ間に頬の一筋の熱さに、ツツーと流れ落ちていく涙に気づくことがある。
それは、しるしのせい。喪失のしるし。

人からは見えないしるしに触れたから。

きっと、そのしるしが音楽によって触れられたとき、揺さぶられるんだ。

きまって、それは「うしなってしまう」うた。

夢の中でしか、会えないひとにあえたときによろこびを感じる。
目覚めたときに泣いていた朝。

もう取り戻せない時間。
それがいたいほどわかっているのに、焦りを感じる気持ち。
せつないくらい、覚えているいとおしい笑顔が、そのときのままではないと
いたいほど知っているのに。それなのに求めてしまう魔法のときを。

なぜ、あのときわたしは、手を離してしまったのか。
手を離せば、迷子になって、絶対に見つからないって
わたしのいとおしい手のひらを、握りしめればぎゅっと握りかえしてくれた
あのときの手のひらはもう存在しない

私に笑いかけてくれた、私を信じていた、純粋な笑顔は今は存在しない

わたしが壊してしまった
目に見えないかわるものなどなにもない
どんな硬い石でもどんな堅い岩でも壊せない
かけがえのない確かな愛情

お金じゃ買えないものを
欲望と引き替えにしてうしなってしまった

どれだけ悔やんでも
手を離してしまった場所に走って走って引き返しても
もううしなってしまった
わたしを待つ人は行ってしまった

あの暗闇の中をはしったけど
光のない海の底のような暗闇を這い進んでいったけど

うしなってしまったから
私を待っていた人は待ちくたびれていってしまった

うしなってしまった者に刻まれるしるし
それが私の永遠に消せないしるし








コメント